紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所(三重県津市)
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どこのため池でヒシの異常繁殖が見られたか


  住宅地域等から排水が流れ込む「ため池」でヒシが異常繁殖


  2006年8月にヒシ群落が水面をほとんど覆っていた津市のため池(大沢池)を見かけ、その後のヒシの推移を観察し、本ホームページに掲載してきた(ヒシの繁茂  その後(1) その後(2) その後(3) その後(4))。

 2007年には、津市に存在するため池をウオッチングして回ったところ、大沢池の他に、岩田池殿村池、釜ヶ谷池(2ha未満)で池面のほぼ全てが高密度のヒシで覆われていた。また、箕内池は、池面のかなりの部分がヒシで覆われていたが、ヒシの葉の間に水面が見える程度の密度であった。前の4ヵ所のため池の特徴は、住宅地域に近く、その排水がため池に流入しているか、あるいは流入していると推定される。箕内池は住宅地域と離れている所にある。

 一方、住宅地域に隣接し、排水が流入しているものの、西池、兵丹池などではヒシの繁殖は見られなかったが、これはヒシが存在していないためと考えられる。もし、ヒシがこれらの池に入った場合には、異常繁殖することが想定される。

 
 昔、泳げた大沢池

 大沢池で調査をしていた時に、大沢池の近所の老人に話を聞いた。その内容は、「戦後、自分が子供であった時には、水がきれいで、向こう岸まで泳いだものだ。その時にもヒシはあったが、このように繁茂していなかった。その後、ヒシが増えてきたが、養鶏家が鶏の餌としてヒシの茎葉を採集し、利用していたので、これほど繁茂はしていなかった。伊勢湾台風(1959年)の後に、危険防止のために、池の水位を低くするように排水孔の位置を下げたので、池の水深が浅くなった。このこともヒシが増えた原因かもしれない。」ということであった。

  
ヒシの異常繁殖の影響
 

 ヒシが異常繁殖し、池面を覆い尽くすような状態になると、マイナスの影響として、1)ため池の
景観が悪化する、2)ため池を利用する水鳥などの繁殖と生息に支障を来す、3)秋に枯れた植物体が池に沈積して、この分解時期に水質が悪化するとともに、異臭を放すことがある。

 一方、プラスの影響もあり、ヒシの繁茂によって、1)夏期には、富栄養化した池から栄養塩類を吸収し、アオコなどの発生を抑え
水質を良くする、2)池面にヒシが存在することにより、アオモンイトトンボ、チョウトンボなどの繁殖が多く見られる(広い水面を利用するギンヤンマなどには適さない)、3)有機物が豊富で餌が多く、また、恐らく外来魚等から身を隠しやすいために、モツゴ、ヌマエビなどの生息数が多くなり、カイツブリ、カワセミなどが見られる。

 なお、大沢池と一身田の新池(対照)の水質の一端を知るために、透視度の調査を毎月行ったので、本ホームページに掲載した。

  
対策
 従って、ヒシの繁殖自体を問題とするのではなく、池面を密に覆い尽くすような状態にならないように管理できればよいと考えられる。そのためには、

 1) 池の一部を掘り下げて、ヒシの茎の長さの限度(約2.5m)よりも水深を深くすれば、ヒシが安定的に生育できず(風で根ごと漂う)、水面の見られる場所ができ、ここで、カイツブリなどの水鳥の採餌や遊泳、広い水面を利用するトンボの飛翔や産卵など、生物多様性と景観の向上に役立つ、

 2) ため池に流入する
生活排水の水質を監視し、必要に応じて改善を求める、

 3) ヒシを
物理的に除去し、できればその利用法を考える(熟したヒシの実は硬く尖っていて丈夫なので、堆肥には向かないと思われる。堆肥にするならば、実が大きく硬くならない早い時期の方がよい。

 4)上記のヒシが異常繁茂しているため池に、
ヒシを加害する昆虫ジュンサイハムシ、ヒシチビゾウムシが高密度で生息する場合に、秋の早いうち(9月)にヒシ群落の衰退が急速に起こる傾向が見られる。水温がまだ比較的高い時期にヒシ群落の衰退が進めば、植物体の分解が促進されて、池底への沈積が緩和されると考えられるが、更に、全体的な影響を知る必要があるだろう。

 5) 昨年までヒシが良く繁殖していた津市一身田の平子池(新池の隣)は、昨年、堰堤工事の為に、夏期からずっと
池干しされた。今年になってヒシの繁殖がほとんど見られなかった。昨年は、池干しされた池の底には多数のヒシの株があり、乾燥したところから順次枯死していった。この時、ヒシの実はかなり大きくなっており、家に持ち帰って水中に入れておいたものは翌年発芽した。従って、冬期に干された状態でヒシの実が冷たい外気に接するとダメージを受けるのかもしれない。これらのことは、ヒシの制御に重要な手がかりとなるかもしれないので、再確認する必要があろう。

 ため池の管理方法として、昔から池を干すことが行われてきた。池を干すと、底にたまったヘドロや有機物の酸化的分解を促進する効果があり、温暖化効果ガスの1つであるメタンのため池からの発生を抑制できると考えられる。ただし、池を干すことは、希少生物等が生息する場合には困難であり、生物多様性保全への配慮も必要である。
 


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